易経の「悪い卦」とは?困・坎・剝・蹇・明夷が本当に伝えていること
2026年10月24日 更新
人がもっとも恐れる卦は、たいてい困(第47卦 沢水困)、坎(第29卦 坎為水)、剝(第23卦 山地剝)、蹇(第39卦 水山蹇)、明夷(第36卦 地火明夷)です。けれども、どれも破滅の宣告ではありません。それぞれが困難な種類の状況を描き、そのうえで、その中でどう振る舞えばよいかを教えています。そのうちいくつかの卦辞には、今でも「亨」(とおる、物事が通じる)という言葉が入っているのです。
なぜこれらの卦は怖がられるのか
一つには名前のせいです。「困」「坎(穴、深淵)」「剝(剝がれ落ちる)」という名は、本文を一字も読まないうちから判決のように響きます。一つには俗説のせいです。中国の一般向けの本では「四大難卦」という言い方がされることがあり、たいていは屯(第3卦)・坎・蹇・困を指します。そしてもう一つは占い方のせいです。安心を求めて卦を立てるので、厳しい象が出ると打撃として受け止めてしまうのです。
『周易』そのものの仕組みは違います。判断は卦全体ではなく、特定の爻と条件に対して与えられています。もっとも厳しい言葉(凶=わるい、厲=あやうい、吝=悔いが残る)も、たいていは何らかの指示と並んで置かれています。それぞれの言葉の重みは判断の言葉についてのガイドで、全体的な問いについては卦に良い悪いはあるのかで取り上げています。
困(第47卦):行き詰まり、疲れ果てること
困は、水が抜けてしまった沢の姿です(澤無水)。資源は尽き、努力は報われず、言葉は信じてもらえません。それでも卦辞はこう言います。「困:亨,貞,大人吉,無咎,有言不信」——困は亨る。正しさを守れば、大人には吉で咎はない。ただし言葉は信じられない。彖伝は鍵となる一文を加えています。「困而不失其所,亨」、追い詰められても自分の拠りどころを失わなければ亨る。そしてそれができるのは君子である、と。
助言はこうです。言葉は届かないのだから口数を減らし、志を守ること。大象は「君子以致命遂志」、君子は命を尽くして志を遂げる、と言います。もっとも厳しい爻は三爻で、石に阻まれ、いばらに寄りかかる姿です。繋辞伝はこれを自分から踏み込んだ災いとして読みます。「非所困而困焉,名必辱」、困しむべきでないものに困しめば、必ず名を辱める、と。上爻は動きで終わります。とどまっていることこそが悔いなのだと気づけば、出て行くことが吉をもたらすのです。
坎(第29卦):水に水が重なる深淵
坎は水の卦を二つ重ねたもので、穴に次ぐ穴です。卦辞は呪いではなく方法です。「習坎,有孚,維心亨,行有尚」——重なる険難。誠があれば心は通じ、行えば尊ばれる。彖伝は水そのものを例に説明します。水はあふれずに流れ続け、険しいところを通っても自らの性質を失わない(行險而不失其信)のです。
「習」という字には「重なる」と「習う、慣れる」の両方の意味があります。大象は君子に、徳行を常に保ち、教えごとを習うこと(常德行,習教事)を求めます。危険には英雄的な行動ではなく、習慣と落ち着きで向き合うのです。爻辞は正直です。凶とされる爻もあり、伝統はそれを和らげません。しかし四爻は、窓から差し入れる質素な供え物とともに「終に咎なし」で終わり、五爻は、穴がまだあふれるほどには満ちていないことを記しています。
剝(第23卦):剝ぎ落とされる
剝は、五本の陰爻が下から食い上がり、その上に陽爻が一本だけ残っている姿です。構造が下から削られています。卦辞は短く、「剝:不利有攸往」、往くところあるによろしからず、です。彖伝の助言は「順而止之」、時に順ってとどまること。大象は、上に立つ者が下を厚くして家を安んじる(上以厚下,安宅)ことを求めます。
その結びは、易経の中でもっとも希望に満ちた象の一つです。上爻は「碩果不食」、食べられずに残った大きな実、剝ぎ取られても生き残る種です。次の卦は復(第24卦 地雷復)で、序卦伝はその理由を述べています。物はいつまでも尽き果てることはできず、剝が上に窮まれば下に戻ってくるのだ、と。
蹇(第39卦):足止め
蹇は山の上の水、行く手に危険のある険しい道です。彖伝は、もっと強く押せとは言いません。止まることを称えます。「見險而能止,知矣哉」、危険を見て止まることができる、それこそ知である、と。大象は障害を鏡に変えます。「君子以反身修德」、君子は自分自身に立ち返り、徳を修めるのです。
爻辞は一つのパターンを繰り返します。往けば蹇み、来れば誉れあり(往蹇,來譽)、再会があり、仲間がいる。五爻では、大きな困難の中に友がやって来ます(大蹇朋來)。上爻は「吉,利見大人」、吉、大人に会うによろし、で終わります。次の卦は解(第40卦 雷水解)、解き放ちの卦です。
明夷(第36卦):光が傷つく
明夷は太陽が地の下に沈んだ姿で、明るい資質が傷つけられたり歓迎されなかったりする時を表します。卦辞はわずか三字、「利艱貞」、艱難の中で正しさを守るによろし、です。彖伝は手本となる人物の名を挙げます。表向きは従順に見せながら内なる明るさを保った文王と箕子です。大象はその方法を示します。「用晦而明」、晦さを用いながらなお明らかである、と。
どのように終わるのでしょうか。上爻は、すべてを暗くした者の姿を描きます。初めは天に登り、後には地に入る(初登於天,後入於地)。頂点にある暗さは長続きしません。次の卦は家人(第37卦 風火家人)、信頼できる人々の輪へ戻ることです。
難しい卦の結び方に見られるパターン
上爻と、それに続く卦を読んでいくと、一つの形が見えてきます。剝は復に転じ、蹇の後には解が来ます。否(第12卦 天地否)は「傾否,先否後喜」、ふさがりがひっくり返り、初めはふさがり、後に喜ぶ、で終わります。繋辞伝はその原理を述べています。「窮則變,變則通」、窮まれば変じ、変ずれば通ず。難しい卦が描いているのは一つの局面であり、本文は常にその局面が動いていくところを示しているのです。
恐れずに難しい卦を読むには
- 運命ではなく状況として読みましょう。 卦はあなたが今いる時の種類を描いています。爻はその中の位置を描いており、厳しいのはその一部だけです。
- 自分で左右できることを探しましょう。 助言のほとんどは振る舞いに関するものです。止まる、待つ、口数を減らす、誠実さを保つ、助けを求める(利見大人)。
- 変爻を確かめましょう。 凶の爻が一本だけなら、それは具体的です。どの動きがうまくいかないかを教えています。ルールは変爻のガイドにあります。
- 之卦を見ましょう。 進んでいく方向を示しており、しばしば出口も示しています。
- 逃れるために立て直さないこと。 気に入らない答えこそ、必要な答えであることがよくあります。答えが的外れに思えるときをご覧ください。
繋辞伝は、易の道は「懼以終始,其要無咎」、初めから終わりまで慎み、咎のないことを要とする、と言います。厳しい卦は、まさにその心で読まれるためにあるのです。